■第三回 湖風祭公演 「ザ・薪能」■
平成九年十一月一日(土)午後五時始
舞囃子 吉野天人 仕舞 鶴亀 小袖曽我 羽衣キリ 雲雀山 小鍛冶キリ 舞囃子 敦盛 仕舞 嵐山 船弁慶クセ 玄象 連吟 竹生島 仕舞 花月クセ 田村クセ 猩々 附祝言 終了予定六時半
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仕舞・鶴亀 中国の昔々の話。唐の皇帝・玄宗が月宮殿に、大勢の家臣を連れて現れる。時は新年。年の始めに、日と月に拝礼するのである。月宮殿は家臣が十重二十重に取り巻いている。その数は何と一億百余人。(今の日本の人口と比較しても遜色ない数である。唐の恐ろしさ、推して知るべし)毎年恒例となっている鶴と亀のめでたい舞に気をよくした玄宗は、自らも舞い、上機嫌で帰っていく。 ――玄宗の舞の部分である。楊貴妃に骨抜きにされる男である。
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仕舞・小袖曽我 父を工藤祐経に殺された曽我十郎・五郎兄弟。武士として仇を討たねば。弟・五郎は母の勘当を受けている身。それを解いてもらわねば、仇を討つにも心にしこりを残したまま、ということになる。二人は母のもとを訪れたが、母は頑な。弟のことを取り持つなら十郎も勘当だとまで言い出す始末。二人は仇を討つ機を逃すわけにはいかず、後ろ髪を引かれると思いながらも出発する。最後には母が折れて勘当を解き、二人の行く末を願いつつ祝う。 ――敵打ちを目前にして勇む二人の舞である。父ちゃん見てな、仇は絶対討ってやる!
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仕舞・羽衣キリ 所は三保の松原。漁師の白龍は松の枝に掛けられたかつて見たことも聞いたこともないほどの美しい衣を見つける。喜んで持って帰り、家宝にしようとほくそ笑む白龍。そこへ、「それは私の物である」と呼び止める声がして女が現れた。美女である。女は自分が天人であると明かし、その衣がなくては天に帰れぬと言うが、それを聞いてますます返したくなくなる白龍。しかし、悲しむ女を見て少し心動かされ、天人の舞をみせてくれたら、と条件を出す。衣をつけた天女は舞い始めた。その様は、あたかも地上に極楽が出現したかのようであった。舞い終えた天女は天高く帰っていった。 ――言わずと知れた天女の舞い。はたして極楽浄土の再現成るか?
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仕舞・雲雀山 右大臣豊成は譫言を真に受け、実の娘を殺せと家臣に命じた。主の命とはいえ姫を殺すに忍びない家臣は、乳母に姫を託す。乳母は、姫を山にかくまった。乳母は姫を食べさせていくため、自ら市へ花を売りに出た。月日は流れ、豊成が雲雀山へ狩りに出かけた際、花売りが現れ、花を買って欲しいという。花売りである乳母は、謡で姫の今の境遇を語り、舞う。その花売りが乳母であることに気づいた豊成は、姫のことを尋ねる。最初は「死んだ」と答えていた乳母も、姫への誤解は晴れ、豊成が心から悔いている事を悟り、親子を引き合わせる。 ――乳母が姫の境遇を謡に託して舞う部分である。姫を思って心乱れる乳母。
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仕舞・小鍛冶キリ ある夜、帝は夢を見た。宗近という刀鍛冶に剣を打たせよと。宗近は宣旨を伝えられたものの。共に刀を打ってくれる者(相槌を打つ者)がいない。困り果てて神を頼るべく、氏神である稲荷明神へ参詣した。そこで宗近は童子に出会った。童子は日本武尊の草薙の剣にも負けない刀が出来ると宗近を励まし、刀を打つ準備をしていると、稲荷明神が現れ、相槌を打ってくれた。刀は出来上がった。稲荷明神は刀の表と裏に銘を入れると宗近から刀を受け取って勅使に渡し、稲荷の峰へと叢雲に乗って帰っていった。 ――刀に銘を入れ、勅使に刀を渡して去っていく稲荷明神。裏の銘は「小狐」。キツネ!
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舞囃子・敦盛 一ノ谷の戦いで、熊谷次郎直実はまだ十六にしかならぬ笛の名手、平敦盛を手にかけざるをえなかった。戦いが終わって後、出家して蓮生法師となった熊谷は、敦盛の菩提を弔うため再び一ノ谷へ出かける。そこで笛を吹く草刈りの少年に会うが、その少年こそ敦盛の霊であった。その夜、敦盛は生前の姿で蓮生の前に現れ、平家の栄光と没落、合戦の有様を物語り、昔は敵であったが、今は仏縁にて結ばれている、と回向を感謝して消える。 ――敦盛の昔語りから消えるまでの部分である。若くして命を散らした美しき貴公子。
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仕舞・嵐山 嵐山も桜の名所として名高い。花見に都から来た一行は、花守の老夫婦に出会う。老人は、嵐山の桜は神木であること、また吉野山の千本の桜を移したものなので、吉野から子守・勝手の神がしばしば来ることなどを述べた。そして、自分たちがその子守・勝手の神であることを明かし、夜を待っていなさいと言って消える。さて、夜になると子守・勝手の神が現れ、桜の枝を持って優雅な天女の舞を見せる。そこへ、蔵王権現も現れ、豪快で颯爽とした舞を見せ、桜の盛りの嵐山で遊び、春を祝う。 ――花盛りの嵐山に遊び、駆け回る蔵王権現。怖い顔で煩悩を払ってくれるそうな。
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仕舞・船弁慶クセ 兄・頼朝に疑われ、都を落ちざるをえなくなった義経。西国へ向かおうと、摂津の国の大物の浦に至る。静御前は義経の側にいたいとついてきたが、足手まといに成ると弁慶に諌められ、都に帰すことになる。別れを悲しみつつ、最後に静は舞を見せる。義経達が海へ出てしばらくすると、波が立ち始め、しまいには大荒れになった。平知盛を初めとし、壇の浦で義経に滅ぼされた平家の怨霊が現れ、義経達を海に沈めようとするが、弁慶の法力に負け、消えていった。 ――義経の不運を嘆き、別れを悲しみつつ舞う静御前。恋する乙女である。
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仕舞・玄象 藤原師長は都に並ぶ者とてない琵琶の名手。師長はさらなる高みを目指して唐へ渡ることとする。唐への旅の道すがら、須磨の浦で海士の老夫婦の家に泊まることとなった。そこで請われて師長は琵琶を弾くが、折からの雨の音が演奏の妨げとなる。だが、老夫婦は屋根に苫を敷いて、雨音を琵琶にふさわしい伴奏の音に変えてしまう。驚いた師長は老夫婦に演奏を請い、二人の琵琶と琴の音を聞いて、自分が井の中の蛙であったことに気付き、渡唐を諦めて帰ろうとする。だが、老夫婦は呼び止める。何を隠そう、この二人は今は亡き村上天皇と梨壺女御であったのだ。村上天皇は秘曲と愛用の琵琶を師長に授けて、天へ還っていった。 ――村上天皇が眷族の八大竜王を従え、師長に秘曲を伝えて還っていく様子。
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連吟・竹生島 竹生島の弁才天は霊験あらたかとの噂を聞き、都から参詣に来た二人。志賀の浦で渡し船を探しているところに折良く老いた漁師と若い海女の乗った船が来たので乗せていってもらうことにする。さて、辺りの景色を愛でるうち島へ着いた。老人は島の案内をかって出、都人もうれしく思うが、娘も島へ入ろうとしているのを不審に思う。聖域は女人禁制というのが常識であるからだ(当時は)。しかし、老人はここの神は女人往生を誓った阿弥陀如来の再誕であるという。娘は弁才天が女なのになぜ女性の参詣を禁じることがあろうかという。そして娘は自分こそが弁才天であるといい社殿へ入り、老人は湖の主であるといって水中に消えた。その後、弁才天が現れ、天女の舞を見せた。それから龍神も姿を現して神の力を見せると、それぞれの所へ帰っていった。 ――龍神が現れて、湖水を波立たせて舞う様。竹生島詣で、皆さんもいかが?
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仕舞・花月クセ 幼き息子を天狗にさらわれた父親は、悲しみあまり出家し、諸国を遍歴する。僧は清水寺に行き、そこで花月という喝食を見る。花月は歌や舞が上手なことで知られていた。花月の恋の小唄を聴き、感心した僧は、清水寺の謡と舞を見せてくれるように頼む。頃は春。咲き乱れる桜の花と美しく舞い謡う花月を見るうち、僧は花月こそが自分の息子であると気付くのであった。そして僧と花月は、二人で修行の旅に出た。 ――花月が清水寺の縁起を謡と舞で見せる場面。喝食とは寺にいる髪を剃っていない子供。
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仕舞・田村クセ 清水寺に東国から旅の僧がきた。僧は童子に寺の来歴を尋ねた。童子は、坂上田村麿により寺の建てられたことを語り、近所の名所を教えた。そのうち、月が出てきた。桜の花も咲き誇り、辺りの美しさの僧は酔いしれた。どうやら、この童子はただ者ではないらしい。そう感じた僧は、童子に尋ねた。すると、童子は地主権現の坂上の田村堂に入っていった。その夜、桜の木陰で法華経を読誦する僧の前に坂上田村麿の霊が現れた。伊勢路での戦いの折、千手観音のお力で数千騎の敵を退けることが出来たのであると当時の模様を語って消えた。 ――童子が僧に、寺の来歴、辺りの数々の名所を教える様。南無観世音菩薩。
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仕舞・猩々 これは中国の話。親孝行な高風は、ある夜不思議な夢を見た。市へ出て酒を売れば裕福になれると教えられたのだ。高風は夢の告げたとおりめでたく金持ちになっていった。高風は、酒を商ううち、おかしな客と知り合った。市ごとに現れて酒を飲んでいくその客は、杯をいくら重ねようとも顔色一つ変えない。名前を尋ねると、猩々と名乗った。海の中に住む妖精なのだという。ある夜、二人は会う約束をした。御機嫌で現れた猩々は嬉しげに舞い、酒のつきない壺をくれて消えた。 ――酒好きの猩々の舞である。なにやらよく分からぬが、とにかくめでたい。
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附祝言・高砂 千秋楽は民を撫で 萬歳楽には命を延ぶ 相生乃松風 颯々乃聲ぞ楽しむ 颯々乃聲ぞ楽しむ |