■第五回 湖風祭公演 「宴」■
平成十一年十一月十四日(日)正午始
連吟 竹生島 仕舞 鶴亀 田村キリ 小袖曽我 天鼓 連吟 大仏供養 仕舞 花月クセ 経正キリ 班女クセ 鞍馬天狗 連吟 土蜘蛛 仕舞 敦盛クセ 清経キリ 胡蝶 羽衣キリ 附祝言 終了予定十三時頃
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仕舞・鶴亀 昔、中国で年の始めのおめでたい儀式が月宮殿という所で行われました。時の皇帝玄宗の長寿を祈ってなんと鶴と亀も舞います。気をよくした皇帝は、自分も舞うことにしました。 月宮殿は色とりどり。春の花の様な、秋の時雨に色づいた紅葉のような、あるいは冴えかえる雪のような衣を翻しつつ人々が曲を演奏しています。すると皇帝は国じゅうすみずみまで豊かになり、未来永劫に栄えるだろうと大喜び。そしてその名も長寿を表す長生殿に帰っていきました。 お仕舞は皇帝の舞ですが、鶴と亀が舞うのも見てみたいものですね。
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仕舞・田村キリ 「おい、鬼神よ、よく聞け。昔、王に背いた天罰によって滅んだ鬼もいる。ましてやここは都に近い鈴鹿山。天罰は避けられまい。覚悟しろ!」 鈴鹿山に鬼神退治に向かった坂上田村麻呂。しかし鬼神は黒雲の上から焼けた鉄を降らし、数千騎の軍勢の姿になり、まるで山のようである。田村麻呂の運命やいかにっ。と、その時、なんと不思議なことか。千手観音が現れた! その千の御手一つ一つに矢を持ち放ったので、一度に千の矢が降りかかったのだ。かくして鬼神は滅び、平和は守られたのだった。 観音様のお力、おそるべし!
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仕舞・小袖曽我 曽我十郎・五郎の兄弟は父の仇を討とうとする。しかし弟の五郎は母に勘当されているため、仇が討てない。兄の十郎はなんとか母を説得し、勘当を解いてもらう。喜ぶ兄弟。しかし、母とは永遠の別れになるかもしれない、そう思いながら二人は舞い、仇討ちへと向かったのであった。 この兄弟の仇討ちは成功します。ただし、その後二人とも討たれてしまうのですが。二人は父の仇を討つことで、自分達は親孝行の例になるだろうと思っていました。実際にはこの仇討ちは日本三代仇討ちの一つになりました。 本望といえば本望、でしょうか。
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仕舞・天鼓 その昔、中国に 貴方に届け! 天鼓の喜び!
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連吟・大仏供養 肩を並べ、膝を交えた狭い船から見た月はなんとも美しかった。今では主従共々、壇ノ浦に沈んだ一門のうらやましいことよ。麒麟でさえも、老いてしまえば駄馬にも劣るというのに、私など……。 平氏の生き残り・景清は世を忍んで生活していました。ある時、頼朝が大仏供養をするというのを聞き、一門の仇を討とうと考えます。春日大社の氏子に変装して頼朝を狙いますが、間一髪見破られ、追いつめられるのです。ですが、刀の霊力によってその場を逃げ、逃げおおせることができたのです。 史実では捕まるのですが、ね。
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仕舞・花月クセ 京都清水寺。清水の舞台で有名なこの寺に行った人も多いはず。この仕舞は、その清水寺で起きた奇跡のお話。 坂上田村麻呂によって作られ、境内に綺麗な水が流れる清水寺。ある日、その水が五色の色になったのだ。どうしたことか、不思議に思った人が、その水源を調べてみると、水源に立派な柳の朽ち木があるではないか。それは、楊柳観音(柳の枝を持つ観音)の化身であった。人々が手を合わせてお祈りすると、その朽ち木の柳は緑を取り戻し、更に、桜ではない山々の老い木までも白い花を咲かせたのである。この仕舞は、そんなおめでたい場面だ。
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仕舞・経正キリ 行慶僧都というお坊さんが、一の谷の合戦で討たれてしまった琵琶の名手平経正を供養します。すると、経正の霊が現れ、琵琶を懐かしんだりして、舞を舞います。しかし、修羅道に堕ちた自分の姿が見られていることに気が付いた経正の霊は、恥ずかしい! 人には見えないはずだったのに! と言って、灯火の中に飛び込み、炎を消して消えてしまいました。幽霊になっても恥ずかしいって、どういうものだろう? と考えてしまうのですが……。いかがなものでしょう?
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仕舞・班女クセ 愛を誓い合った男女がいた。ところが、男の方は旅に出たまま行方不明になってしまう。残された女は、辛抱強く男の帰りを待つが、いっこうに音沙汰がない。あまりの悲しみに、少し気が触れた女は、男を捜して各地を徘徊するようになってしまう。 この仕舞は、女が男を捜して徘徊する場面である。愛する男を思い続けるあまり、ついに気が触れ、それでもなお、男を捜し続ける。女の、男に対する想いの激しさがいかほどのものか、思わず同情せずにはいられないのではないだろうか。
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仕舞・鞍馬天狗 牛若丸と言えば、のちの源平合戦で活躍する源義経の幼名だが、彼は幼い頃、鞍馬の寺に預けられていた。そこで牛若丸は大天狗に認められ、大天狗の持つ、様々な戦の技能を教えこまれていたのだ。この仕舞は、その戦の師である大天狗との別れの場面である。 大天狗は、牛若丸に将来の活躍を予言し、別れようとする。しかし、師である大天狗との別れが辛い牛若丸は、大天狗の袖を掴まえ、一緒にいてくれるように頼む。大天狗は、たとえ姿は見えなくも、いつでも牛若丸のそばに付き、戦の助けになろうと約束し、姿を消すのであった。
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連吟・土蜘蛛 酒天童子を退治した勇敢な武将の源頼光は、謎の病気で苦しんでいた。実はその病気は、土蜘蛛という化け物の呪いによるものだったのだが、彼はその事に気付いていなかった。 この場面では、昼夜とわず、病気を治すためにいろいろな手段をこうじているものの、いっこうに良くならず朝昼の区別もつかなくなってきた。なんとか気を紛らわそうとしても、全然ダメだぁ……。と弱音をはいて、悲しんでいるところである。 カッコイイ、いつもの武者のおもかげも無く、ちょっと、なさけなかったりする。
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仕舞・敦盛クセ 敦盛とは、一ノ谷の合戦で十六歳の若さで討死した音楽好きな平家の公達・平敦盛のことです。 彼を討った熊谷直実は悔やみ、出家して彼を弔っていました。 そこへ敦盛が亡霊となって現れ、平家一門がはかない栄華に誇っていたこと、寿永の秋に都落ちし、やがて一ノ谷に城を作り、須磨人と慣れ親しみ暮らすようになったことなどを語ります。 そして、笛を吹き今様を謡った最後の宴を懐かしみ舞い、回向を頼み消え去ります。 今回は、その平家一門の栄枯衰勢を語っているところの舞です。
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仕舞・清経キリ 平重盛の三男の清経は、考え深くも行動力に欠けたインテリです。そんな彼が、心ならずも戦に出、あいつぐ敗戦に前途を絶望して、船から身を投げてしまいました。 その話を聞いた妻は、自分を残して自殺するとは酷い、と泣きながら床につくと、清経が夢に出てきました。そして、月の美しい夜更けに今様を謡って入水したと語ります。続いて修羅道の苦しみを見せた後、姿を消します。しかし、実は最後の十念の功徳によって成仏できたのでありました。 華々しく討死した若武者もいますが、清経のような人もいたのです。
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仕舞・胡蝶 胡蝶の精は、春夏秋と草木の花から花へ戯れるのですが、早春の梅花とだけは縁がなかったのです。 ある日、旅の僧がやってきてその梅の木を眺めていたので、胡蝶は梅の木について語りました。そして理由を話して、法華経の功徳を頼みます。 その夜、旅の僧の夢に現れて、お経の効力により梅花とも縁を得たと、花に飛びかう胡蝶の舞を見せ、春の夜の明けゆく空に、霞にまぎれて去っていきました。 能の舞台では、紅梅立木の作り物が置かれてます。それを想像して見ると、より一層華麗で可憐さが出てきますよ。
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仕舞・羽衣キリ ここは、駿河国三保の松原(今の静岡県清水市)。そこに住む漁師が、松の枝に、美しい衣が掛かっているのを見つけ、持って帰ろうとしました。 すると一人の女性が、「返してよ」と言って現れます。そして「私は天人なの、それがないと天に帰れないのよ」と嘆き悲しみます。 それを聞いた漁師は「羽衣を返す代わりに舞って欲しい」と頼みます。すると天人は喜んで、月世界の面白さや、三保の松原の春景色を讃えます。 そしてこの地上に数々の恩恵を施し、愛鷹山、さらには富士の高嶺へと舞い上がり、霞の中に消えて、天空へと帰っていくのでした。
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附祝言・高砂 結婚式で活躍しているとてもめでたい曲です。でも、今回は異なる一部分です。聞いた事はありますか? 千秋楽は民を撫で。萬歳楽には命を延ぶ。相生の松風颯々の声ぞ楽しむ。颯々の声ぞ楽しむ。 次は、内容が気になりませんか? 『千秋楽』という雅楽を演奏して民の安全を願い、『萬歳楽』という雅楽を待っては君の長寿を願います。この相生の神松の舞は続き、松に吹く風はさあっと音を立てて、皆はその音の平和な響きを楽しみます。 これであなたも謡いたくなりますね?
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